2025年10月26日日曜日

日銀のETF購入と売却

 

📉 購入開始と目的(2010年〜)

  • 開始時期:2010年、金融緩和策の一環としてETF・REITの買い入れを開始。

  • 目的:株式市場を通じて資産効果を高め、デフレ脱却を促すため。

  • 政策の特徴:中央銀行がリスク資産(株式市場関連商品)を買うという異例の金融政策


異次元緩和による拡大(2013年〜)

  • 黒田総裁の下で拡大:2013年の「異次元緩和」で買い入れ額を大幅拡大。

    • 2013年:年1兆円規模

    • 2016年:年6兆円規模まで引き上げ

  • 狙い

    • 株価上昇を通じた景気刺激

    • デフレ心理の払拭

    • 企業のリスクマネー拡大を促すこと


新規買い入れ停止(2024年)

  • 背景:マイナス金利とYCC(長短金利操作)の終了により「異次元緩和」から脱却。

  • 決定:2024年3月、ETF・REITの新規買い入れを停止

  • 方針転換:超緩和から正常化政策への移行を明確化。


売却の検討と決定(2025年)

  • 背景:買い入れ停止後、日銀と財務省が出口戦略を協議。

  • 提案:2025年8月、財務省が「過去の銀行株売却と同程度のペース」での売却を提案。

  • 決定:2025年9月19日、金融政策決定会合でETFとREITの売却方針を正式決定


売却の方針・スケジュール

  • 開始時期:2026年初めを目標。

  • 方法:市場での段階的売却(市場の混乱を避けるため少額ずつ)。

  • 委託運用:2025年10月、信託銀行の公募を開始。入札方式で選定予定。


売却ペースと見通し

  • 年間売却規模

    • 簿価ベース:約3,300億円

    • 時価ベース:約6,200億円

  • 植田総裁の見解

    • 「全量を売却するには単純計算で100年以上かかる」

    • 市場環境に応じて一時停止・調整も可能と明言。

  • 目的:市場の安定を最優先しつつ、保有残高の長期的縮小を目指す。


ETF保有の現状と課題

  • 保有額の規模:2024年度末時点で約50兆円超と推定。

  • 主な課題

    • 売却による株価下押しリスク

    • ETFを通じた「事実上の国有化」懸念

    • 出口戦略の透明性確保

  • 意義:金融正常化の象徴的ステップであり、「異次元緩和からの完全脱却」を象徴する動き。

2025年10月17日金曜日

円キャリー取引とは


  • 定義:低金利の円を借りて売り、高金利の外貨に換えて運用し、金利差(キャリー)で利益を得る取引。

  • 狙い:為替差益ではなく、主に金利差益を目的とする。

  • 効果:取引が活発になると円売り・外貨買いが進み、円安圧力が強まる。


⚙️ 仕組み

  1. 日本で低金利の円を調達(借り入れ)

  2. 円を売って、ドルや豪ドルなど金利の高い通貨を購入

  3. その通貨建ての債券や預金などで運用して金利差を得る

  4. 為替相場が安定していれば、金利差分が利益として確保できる


📉 背景と発生要因

  • 日米金利差の拡大:日本が超低金利政策を維持する一方、FRBなどが利上げを行うとキャリー取引が活発化。

  • 市場の安定局面:為替変動が小さいと、リスクが低下しキャリー取引が行われやすい。

  • 金融政策の非対称性:日銀が緩和継続、他国が利上げ――という構図が続くほど円キャリー取引は増える。


🌪️ 主なリスク

  • 為替変動リスク:円高が進むと、外貨を円に戻す際に損失(為替差損)が発生。

  • 市場変動リスク:ボラティリティ上昇時、投機筋が一斉にポジションを解消 → 円の買い戻し(円高)につながる。

  • 政策転換リスク:日銀が利上げに転じると、キャリー取引の利点が消え、円高方向へ巻き戻しが起きる。


💹 最近の動向(2024~2025年)

  • 停滞傾向:「米・欧・日」のいずれも経済不安を抱え、三すくみ状態で取引が減少。

  • 巻き戻し発生(2024年8月):日銀が利上げを決定し、キャリーポジション解消 → 円急騰。

  • 新たな形のキャリー取引:日本の個人投資家がFXを通じて外貨運用を行う動きが拡大。
     → 為替相場が反転した際、個人の円買い戻しが急速な円高を引き起こすリスクも。


✅ ポイント整理

比較項目 円キャリー取引が進む時 円キャリー取引が巻き戻される時
金利差 海外>日本 金利差縮小・日銀利上げ
為替相場 安定(低ボラティリティ) 変動(高ボラティリティ)
市場心理 リスク選好(株高局面) リスク回避(株安・地政学リスク)
為替影響 円安 円高

2025年10月4日土曜日

フェデラルファンド金利とレポ金利

共通点

  • いずれも短期金融市場での資金調達コストを示す金利
  • 金融政策や市場の流動性状況を把握する重要な指標

💰 FF金利(フェデラルファンド金利)

  • 定義米国の銀行間で、無担保で翌日物の資金を融通する際の金利
  • 政策金利FRBがFOMCで誘導目標レンジを設定し、米金融政策の中心的な指標
  • 日本の対応指標無担保コール翌日物レート
  • 特徴無担保取引のため、信用リスクを反映しやすい

📜 レポ金利

  • 定義:債券を担保に資金を貸し借りする「レポ取引」で適用される金利
  • 取引形態
    • ・「売り手」=資金を調達するため一時的に債券を売却
    • ・「買い手」=資金を貸し出す代わりに債券を担保として受け取る
    • ・後日、元本+金利で買い戻す契約(リバース取引とセット)
  • 特徴:担保付きのため信用リスクは低く、通常はFF金利より安定
  • 計算要素:資金貸付金利 − 債券の品貸料(債券貸借料)
  • 日本の位置づけ:無担保コール翌日物と並び、代表的な短期金利

📉 レポ金利の低下(2025年1月の事例)

  • 背景:日銀の国債大量保有で債券需給が逼迫
  • 結果:債券の品貸料が上昇 → レポ金利は低下
  • 意味:金利引き上げ局面でも、需給ひっ迫が短期市場に異例のゆがみを生じることがある

ポイント

  • FF金利=政策的に誘導される「無担保の短期金利」
  • レポ金利=市場需給に左右されやすい「担保付き短期金利」
  • 両者の乖離は、金融政策の効果や市場の歪みを把握する上で注目される

2025年9月27日土曜日

長期金利と景気の関係

📈 長期金利上昇の影響

  • 景気回復局面では物価上昇期待が強まり、長期金利は上昇しやすい

  • 住宅ローンや企業融資の金利上昇につながり、家計や企業の支出に影響

  • 日銀の政策金利引き上げ観測が長期金利上昇の一因となる


📉 長期金利低下の影響

  • 景気悪化や雇用悪化の兆候があると、長期金利は低下しやすい

  • 不透明な政策環境(例:トランプ政権期)でも長期金利が下がることがある

  • 金利低下は借入コストを抑制し、景気下支え要因となる


⚠️ 注意点

  • 長期金利の動向は「経済指標」だけでなく
    ・市場の需給
    ・海外金利動向
    ・金融政策
    など多要因に左右されるため、解釈には注意が必要


🏦 金融政策と市場対応

  • 日銀は原則、市場で長期金利が自由に形成されることを尊重

  • ただし急激な金利上昇時には、国債買い入れ(オペレーション)などで市場安定を図ることもある


🤝 市場との対話

  • 植田和男総裁は「将来の短期金利方針を市場に明確に示すこと」が重要と発言

  • 市場との信頼関係を通じて長期金利の安定を目指す姿勢


🔍 最近の事例

  • 2025年1月:長期金利が1.25%に上昇(約13年9カ月ぶり)
    → 米国の雇用統計が予想を上回り、FRB利下げペース鈍化観測が背景


まとめ

長期金利は「経済の温度計」として景気・物価・金融政策を反映する。

家計の住宅ローンや企業資金調達コストに直結するため、その動向は常に注視すべき指標である。

2025年9月21日日曜日

プラザ合意とその影響

プラザ合意の概要

  • 1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルで開催されたG5(米国、日本、西ドイツ、フランス、英国)会合で成立。
  • 目的:過度なドル高を是正し、米国の貿易赤字縮小を図るため、協調介入を行うことで合意。


合意の背景

  • 米国の巨額貿易赤字ドル高によって輸出が不振に。
  • 保護主義圧力の高まり米国内で関税強化や規制強化の声が強まっていた。
  • 日本の台頭輸出競争力が急伸し、米国との貿易不均衡が顕著化。


合意の内容

  • 協調介入:各国がドル売り・自国通貨買いを実施し、ドル安・円高を誘導。
  • 政策協調
    • 米国は財政赤字削減
    • 日本・西ドイツは内需拡大
    • 他の主要国も政策調整を行うことで合意。

合意後の影響

  • 急激な円高:1ドル=240円台 → 半年後180円台、1986年には150円台。
  • 円高不況と金融緩和:急速な円高で輸出企業が打撃 → 日本銀行が大幅金融緩和。
  • バブル経済:低金利と公共投資により株価・地価が急騰、後のバブル崩壊へ。
  • 産業構造の変化:企業が海外移転を加速 → 国内産業の空洞化。


その後の展開

  • ルーブル合意(1987年):過度なドル安を防ぐための協調合意。しかし各国の足並みが乱れ、同年「ブラックマンデー」へ。
  • 「第2のプラザ合意」論:その後もドル高是正の必要性が議論されるが、新興国台頭・市場規模の拡大で再現は困難。


その他の影響と教訓

  • 貿易不均衡是正:一時的に日本の対米黒字縮小に寄与。
  • 政策協調の限界:国際協調は維持困難で、副作用(円高不況・バブル膨張)を招いた。
  • 現代への示唆
    • 市場介入は副作用が大きい
    • 金融緩和は長期的な資産バブルリスクを伴う
    • 国際協調は必要だが合意の持続は難しい。

✅ 補足点:

  • プラザ合意後の日本の金融緩和が「失われた30年」につながる構造的要因のひとつとされる。
  • 米国はドル安を通じて一時的に赤字縮小したが、根本的な構造改革にはつながらなかった。
  • G7(主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議)への発展の一里塚とも言える。

2025年9月18日木曜日

CAPEレシオ

CAPEレシオの概要

  • CAPEレシオ(Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio) は、日本語で「景気循環調整後PER」と呼ばれる株価指標。

  • 株価を直近1年の利益だけで判断するのではなく、過去10年間の実質利益の平均を用いて株価水準を評価する。

  • 株式市場が割安か割高かを判断する際に、長期的な視点から活用される。


CAPEレシオの計算方法

  1. 過去10年間の企業の1株当たり利益(EPS)を実質ベース(インフレ調整後)で算出。

  2. その10年平均値を求める。

  3. 現在の株価を、この10年平均EPSで割る。

👉 通常のPER(株価収益率)が「現在の利益」を基準にしているのに対し、CAPEレシオは「長期平均の利益」を使う点が大きな違い。


CAPEレシオの特徴

  • 景気循環の影響を平準化:景気の好不況による一時的な利益変動をならして、株価水準を評価できる。

  • バリュエーション判断:数値が高ければ株価が割高、低ければ割安とされる。

  • 長期投資向きの指標:短期的な売買シグナルではなく、長期的な株式市場の水準を見極めるために使われる。


歴史的な活用事例

  • この指標を有名にしたのは、米エール大学のロバート・シラー教授。

  • 特に米国株式市場のバブルや割安局面を判断する際に用いられ、「シラーPER」とも呼ばれる。

  • 2000年のITバブル時にはCAPEレシオが歴史的高水準となり、その後の株価下落を示唆していた例が知られている。


投資家にとっての意味

  • 長期的なリスク管理:割高圏ではリスクが高まるため、投資比率を調整する材料になる。

  • 国際比較にも利用:米国、日本、欧州など主要市場のCAPEレシオを比較することで、相対的な割安・割高を判断できる。

  • 万能ではない:直近の利益動向や金融政策の影響は十分に反映できないため、他の指標と組み合わせて判断することが重要。


まとめ

CAPEレシオは、株価が「長期的に見て割高か割安か」を判断するための指標で、短期的な売買というよりは中長期の投資判断に役立つ。景気循環による一時的な利益の増減を平準化しているため、株式市場全体の評価に適しており、世界の投資家に広く利用されている。

2025年9月11日木曜日

メジャーSQとは

SQ(特別清算指数)とは

  • SQ(Special Quotation:特別清算指数) とは、株価指数先物やオプションなどの取引を清算するために算出される価格のこと。

  • 先物やオプション取引には期限(満期日)があるため、最終的に「いくらで決済するか」を決める必要がある。その基準となる価格がSQである。


メジャーSQとは

  • メジャーSQとは、先物取引(株価指数先物)とオプション取引(株価指数オプション)の両方が同時に清算される日を指す。

  • 日本では 3月・6月・9月・12月の第2金曜日 にやってくる。

  • この日は市場参加者の売買が集中するため、株価が大きく動くことが多い。


メジャーSQが注目される理由

  • 取引量が増える:先物やオプションを保有していた投資家が、一斉に決済やロールオーバー(次限月への乗り換え)を行うため、売買が膨らむ。

  • 株価が乱高下しやすい:需給の影響が強く働くため、短期的に株価が大きく動くことがある。

  • 投資戦略に影響:大口投資家や機関投資家の動きが反映されやすく、相場の転換点として注目されることもある。


メジャーSQと投資家の行動

  • 短期投資家:ボラティリティ(価格変動)が高まることを利用して、短期売買で利益を狙う。

  • 長期投資家:一時的な乱高下に惑わされず、あくまで長期の投資方針を重視する。

  • 機関投資家:ヘッジやロールオーバーのための売買が中心。


メジャーSQ日の注意点

  • 株価指数の寄り付き(始値)が通常より大きく動くことが多い。

  • SQ算出に合わせた思惑的な売買も出やすく、市場の値動きが乱れる場合がある。

  • 個人投資家が短期的な変動に振り回されるリスクもあるため、取引には注意が必要。


📅 2025年のメジャーSQ日程

  • 3月14日(金)

  • 6月13日(金)

  • 9月12日(金)

  • 12月12日(金)

👉 いずれも 第2金曜日 にあたり、この日に株式市場の売買が集中する可能性が高い。


まとめ

メジャーSQとは、先物とオプションが同時に清算される特別な日で、年に4回訪れる。
この日は市場参加者の売買が集中するため、株価が大きく動くことがあり、投資家にとって重要なイベントである。短期売買のチャンスでもあるが、リスクも伴うため、冷静な判断が求められる。

日銀のETF購入と売却

  📉 購入開始と目的(2010年〜) 開始時期 :2010年、金融緩和策の一環としてETF・REITの買い入れを開始。 目的 :株式市場を通じて 資産効果を高め、デフレ脱却を促す ため。 政策の特徴 :中央銀行がリスク資産(株式市場関連商品)を買うという 異...