中期経営計画とは何か
中期経営計画とは、企業が3〜5年程度の中期的な期間において、経営目標や戦略を示す計画。企業はこれを通じて将来の成長に向けた方向性を明示し、具体的な数値目標を設定することで、組織全体の目標達成意識を高めることができる。
中期経営計画は株主や投資家に対し、企業の将来性や経営の方針を示す重要な情報開示ツールでもある。投資判断の材料として利用されるほか、資本市場との対話を促進する役割も果たす。
策定の背景と拡大の理由
近年、中期経営計画を策定・公表する企業が増加している。その背景には、東京証券取引所(東証)による資本効率を意識した経営の促進がある。
PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対し、資本コストや資本収益性を意識した改善を求める動きが強まり、中期経営計画を通じて資本効率改善策や成長戦略を投資家に開示する必要性が高まっている。
このような動きは上場企業に限らず、中小企業にも波及しており、経営の見える化・方針の明確化の一環として初めて中期経営計画を策定するケースも増えている。
中期経営計画を巡る最近の動向
中期経営計画をあえて廃止する企業も現れている。主な理由は、短期的な数値目標に縛られず、長期的なビジョンに基づいた柔軟な経営判断を行いたいという意図にある。
味の素は3カ年の収益予想を積み上げる形式の中期経営計画を廃止し、将来のあるべき姿を描いた成長ストーリーの提示に切り替えた。日本ペイントホールディングスも、従来の数値目標に代えて、既存事業の年平均成長率(CAGR)とM&A方針を中心とする中期経営方針を導入している。
マクロ環境の急激な変化に対応するため、計画を毎年見直す「ローリング方式」を採用する企業も増加傾向にある。計画の柔軟性を高め、現実的な経営判断に資する手法として注目されている。
日本における中期経営計画の始まり
中期経営計画は、日本に特有の経営慣行であり、欧米ではあまり一般的ではない。その起源は1956年、松下電器産業(現パナソニックホールディングス)が発表した「5カ年計画」であるとされる。
この計画では、5年間で売上高を220億円から800億円へ、従業員数を1万1,000人から1万8,000人へと拡大するという明確な目標が掲げられ、以後、日本企業における経営計画のモデルとして広がっていった。
今後の中期経営計画のあり方
企業を取り巻く事業環境が急激に変化する現代において、中期経営計画の在り方も見直されている。
従来のように各事業部からの積み上げ型で計画を策定するのではなく、経営トップ自らが主導して戦略を立案し、外部に向けて積極的に発信する姿勢が重要視されている。
中期経営計画の策定・開示プロセスを抜本的に刷新し、経営改革や企業価値向上を目的とする動きも見られる。
ESG・サステナビリティとの連動
近年では、中期経営計画にESG(環境・社会・ガバナンス)要素やサステナビリティ戦略を組み込む企業も増えている。中長期的な非財務目標を掲げ、企業の社会的責任や持続可能な成長を重視する姿勢が、国内外の投資家からの関心を集めている。
中期経営計画は単なる「業績予想」から、「企業価値全体を向上させる戦略文書」へと進化しつつある。